教員コラム
田中 邦彦|2020.07.17VIEW 799
宇宙は医療を変えるか
米国の民間有人宇宙船「クルードラゴン」が2020年5月に国際宇宙ステーションに到着したことからも分かるように、今後は宇宙が身近になるでしょう。また研究分野においても、日本の宇宙実験棟「きぼう」では宇宙を創薬の実験場として利用する動きが広がっています。
それでは宇宙医学に目を向けてみましょう。宇宙と地球の大きな違いは重力です。地上では重力に縛られ、歩く際に両足で体重を支えてバランスをとっています。そして心臓は、重力に逆らい頭に向かって血液を送り続けています。しかし宇宙空間では重力がないので、その束縛から解放されます。例えば足。体を支える必要がなくなり、小さな力で動けます。そして心臓も楽に血液を送り出せます。すると体が変化を起こし、筋肉は丈夫である必要がないのでやせ細り骨もスカスカに。お年寄りに見られる変化が急速に進むのです。いや、年を取るのではなく若くなって赤ちゃん時代も超え、骨は細く足もなく、魚時代に逆戻りするのかもしれません。筋肉でできている心臓も縮み、大量の血液がなくても送り出せるので血液量が減少します。この状態で地上に戻ると一人で立てず骨は折れやすく、立ちくらみがして倒れてしまいます。地球に戻るにはこれらを予防せねばなりません。
そこで宇宙では次のような健康管理を行っています。
まずは筋肉を鍛えること。そのために毎日時間をかけてハードな運動を行います。また薬も使われており、骨からカルシウムが溶けだして骨粗鬆症にならないよう服用したり、常備薬として平衡障害や吐き気等を起こす宇宙酔いに対応したものが置かれたりしています。
無重力の空間では、体に思いがけない現象が起こります。宇宙医学では“重力がないとどうなるか”という疑問をベースに、人体に起こる変化を計測する研究を重ねています。地上の知識を宇宙で応用しながら新たな知識を生み出し、更にまた地上での医療に生かしているのです。
執筆教員紹介
職位・学位:教授、大学院保健医療学研究科長・博士(医学)
氏名:田中 邦彦
専門分野:生理学(神経性血圧調節)・宇宙医学
担当科目:病態薬物治療学、病態情報解析学、救急処置法、総合薬学特論、フィジカルアセスメント論・演習、特別研究
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