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教員コラム
森 博美|2020.07.17VIEW 743
誤飲・誤食事故の適切な処置に欠かせない臨床中毒学
「中毒」とは、生体に対して毒性を持つ物質を摂取することによって機能障害を引き起こすことをいいます。例えば、殺虫剤や除草剤などの農薬、洗剤や乾燥剤などの家庭用品、スイセンやトリカブトなどの植物毒、マムシやフグなどの動物毒、その他にも酒類やカフェイン類など、許容量を超えて体内に取り込むと危険な毒性を持つものは実に様々です。
これらを誤飲・誤食する中毒事故の場合、体内で何が起こるかを予測しなければ適切な対処はできません。
もし乳幼児がボタン電池を飲み込んだら…?それに気づいた母親はパニック。病院に駆け込むなり「先生、うちの子が大変‼早く何とかして下さい!」と必死に訴える母親を見て、現場も緊迫した空気に包まれます。一刻も早く処置したい医師が相談するのがまさしく薬剤師。「新しい電池ならば、粘膜に留まると電流が流れて組織液などが電気分解し、生じたアルカリ液によって腐食したり穴が開くことも考えられます。これが消化管の粘膜で生じると開いた穴から胃液や腸液が漏れ、心臓や肺などの臓器を侵して死に至るため直ちに処置しなければなりません」。こういった薬剤師の回答が頼りとなり、医師は鉗子や内視鏡で摘出、もしくは開腹手術で取り出します。一方、古い電池であれば下剤投与で排出を促し、危険な処置を行わなくて済むこともアドバイスします。
このように、中毒起因物質によって対処が異なるため、薬剤師はいかに早く正確な中毒情報や処置法を医師に提供できるかが重要です。また、何を飲んだか不明な場合にはその原因物質を迅速に特定すべく診断や検査法にも策を凝らします。
「臨床中毒学」は地球上にある全ての化学物質が対象であり、まさに薬学の基礎と応用がしっかり結びついた学問。中毒の専門的知識を得た薬剤師が、救急医療の現場に大きく貢献しています。
執筆教員紹介
職位・学位:教授・博士(薬学)
氏名:森 博美
専門分野:臨床薬学分野(調剤学・病院薬学・薬局薬学)
担当科目:薬学概論、実務実習、医薬品副作用学など
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