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物理系研究室

磯野 蒼|2020.07.29VIEW 607

がん特異的環境に応答する多機能型高分子ナノキャリアの開発

様々な治療法が確立された近年においても低分子抗がん剤は依然として有用である。しかしながら抗がん剤には①物質の特性の悪さ、②がんへの選択性の低さ、③治療域の狭さといった欠点がある。低分子の特徴として、疎水性を上げれば難溶性になり、親水性を上げれば細胞内へ移行しなくなり、効果的な送達が行なうことは困難である。また低分子抗がん剤は、細胞増殖を阻害することで正常細胞より増殖能の高いがん細胞に、より多くの障害を与える。しかし特定の部位を狙い撃ちしているわけではなく、全身を循環するため、正常細胞にも傷害をもたらす。このような特性からがんへの選択性が低く、副作用を引き起こしやすい。他にも抗がん作用を示すためにはがんに一定以上の薬物濃度が必要であるが、投与量を増やすと前述のように選択性が低いため、副作用を引き起こす。

これらの低分子抗がん剤の持つジレンマを解決するべく、多機能な高分子を設計することで、がん組織を標的とし、かつ、がん細胞内への移行性が高い高分子ドラッグキャリアの開発を目指す。

この送達を可能とするためにペプチドの力を利用する。ペプチドとはアミノ酸がいくつか結合したもので、特定の酵素と反応して分解されたり、受容体と結合して細胞内に取り込まれたりする。この特性を用いて、がんの特異的環境に応答する仕掛けを施すことで、がん組織内へ選択的に到達し、がん細胞内で分解され、抗がん剤を放出する高分子ナノキャリアを創出する。

この研究の成果は、それ自体、副作用が少なく効率的な抗がん剤として有用である他、物性及び副作用の問題によって開発段階でドロップアウトする低分子抗がん剤をよみがえらせることも可能で、創薬開発の基盤技術として新たな戦略を提供するものと期待される。

物理系研究室
助教 磯野 蒼

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