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薬学臨床系研究室
梅村 雅之|2020.07.17VIEW 1,948
医薬品と医薬品の投与に用いる医療用器材との間に起こる相互作用について考える
医薬品を投与するためには、様々な医療器材が必要です。例えば、注射器や点滴セットもその一つです。点滴チューブには、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリブタジエン等、コックや接続部分にはポリカーボネート等、様々な素材が用いられています。一方、医薬品は、様々な物性を有するため、医薬品によってはプラスチックやビニール製の医療用器材に吸着されてしまい、患者さんに適正量を投与できないことがあります。例えば、硝酸イソソルビドという医薬品は、狭心症発作の治療に使います。すなわち、命を落としかねない発作が起きたとき、この医薬品を投与することで、発作を治療することができます。しかし、この硝酸イソソルビドの点滴を準備する際に、PVCを素材とした点滴チューブを用いると、硝酸イソソルビドが点滴チューブに吸着されてしまい、必要とする投与量の半分しか体内に到達しません。しかし、私たちは、点滴内の医薬品が吸着されてしまっていることを、目視で確認することができません。また、狭心症の患者さんは、いつ発作が起きても自分で応急処置できるように、硝酸イソソルビドの液剤を持っていることがあります。もし、発作が起きたら、患者さん自身が液剤を舌下や歯茎の間にスプレーすることで、すぐに効果が表れ、発作を緩和させることができます。しかし、口の中に入れ歯や入れ歯を固定する義歯安定剤のようなプラスチック製の器材があったら、医薬品を吸着してしまう可能性があるのです。医薬品とプラスチック製の器材の関係が明らかにされている医薬品もあります。しかし、医薬品とプラスチック製の器材が引き起こす様々な相互作用の組み合わせは無数にあり、使用前に予測することができません。そのため、私たちの研究室では、どのような医薬品とプラスチック製の器材が相互作用を引き起こすのか、また、どのようなメカニズムでそれが引き起こされるのかを実験し、解明するとともに、医療情報として発信しています。薬の専門家として、科学者として、医薬品と医療器材に発生する様々な問題を実験的に検証し、解決する研究に取り組んでいます。
図の説明:点滴内の硝酸イソソルビドとイソソルビドの濃度を測定すると、ボトルから採取した場合(上段)とチューブから採取した場合(下段)では、チューブから採取した場合(下段)の硝酸イソソルビドの波形がイソソルビドの波形と比べ、小さくなっている。これは、何らかの影響によってチューブ内の硝酸イソソルビドの濃度が薄くなったことを表している。
薬学臨床系研究室
教授 梅村 雅之
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