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薬学臨床系研究室
重山 昌人|2020.07.17VIEW 2,485
Mohsペーストの医療ニーズを通じ製剤学的研究から臨床応用までの検討について
Mohsペースト(MP)は、塩化亜鉛と亜鉛華デンプンからなる外用剤で、表在性腫瘍(がん性創傷)に対して使用する院内製剤である。手術不適応例における腫瘍除去、自壊創における止血や滲出液の軽減、二次感染に伴う悪臭抑制等を目的に使用される。
しかしながら、「硬度や粘着性の経時的変化」、「滲出液や血液吸収後の液状化」の2つの製剤的問題点を有するため、臨床現場において取り扱いに苦慮している例を散見する。
そこで、物性変動の要因を解明し、利便性の高い製剤設計を試みた。さらに、設計したMPの薬効評価、安定性評価および症例検討を行った。最初に、硬度調節目的で添加されているグリセリンの影響を検討したところ、添加量依存的に硬度を低下させるが、経時的に伸長特性が上昇し、粘着性の増加は改善されなかった。塩化亜鉛存在下では、亜鉛華デンプン中のデンプン顆粒は徐々に膨張した後、糊化する様子が観察され、物性変化の要因と推察された。そこで、デンプンへの水分子侵入を抑制することで、物性変動が抑制されるか、可溶性の水分保持添加剤を加えて検討を行ったところ、ソルビトールの添加により急激な硬度上昇と伸長特性の増加が抑制された(S-MP)。
S-MPを共同研究病院にてがん自壊症例に適用したところ、塗布性が大幅に改善し、創部止血効果や腫瘍除去効果はMPに劣らなかった。
しかし、液状化の問題点を改善することが出来なかった。
そこで、さらに経時的変化及び液状化の問題点を改善するために、デンプンを微結晶セルロースと吸水性基剤に置換えて検討した(C-MP)。長期保存後も物性は安定し、吸水試験において形状が保持されて液状化は生じなかった。物性試験、基剤の特性、吸水性試験及びin vitro 放出性試験の結果などから処方を決定した。
更に、マウス皮膚担がん腫瘍の組織固定効果をCTを用いて検討したところ、良好な結果が得られた。
調製時の業務負担や曝露リスクの軽減、頻回処置や緊急処置への対応を可能にするためにも、製剤的に安定したMPの市販化が望まれる。我々は、更なる研究を続け軟膏を用いてがん性創傷に挑戦し続けます。
薬学臨床系研究室
教授 重山 昌人
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