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生物系研究室
小畑 孝二|2020.07.14VIEW 568
ラット摘出心臓の血液交叉灌流実験法を用いた左心室メカノエナジェティクスに関する研究
心臓はATPという化学的エネルギーを、収縮という機械的エネルギーへと変換することで、血液を全身に送り出すポンプとして働いています。そのエネルギー効率はどのようにして決められているのかはわかっていません。もし、エネルギー効率の良い心臓を作ることができれば、心臓病の患者さんの多くを救うことができます。通常時の心筋の ATP産生源の多くは脂肪酸ですが、機能が低下した病的心臓では、代謝リモデリングといわれるグルコースへの変化が知られています。心臓は、どのように代謝基質を選択し、仕事量に応じてATP産生量を調節するかについては解明されていません。
図1と2は、奈良県立医科大学時代の恩師である高木 都先生が開発し、私が改良した実験法およびその結果の概念図です。心臓本来の正確な収縮性とエネルギー(酸素)消費を、同時にリアルタイム測定することは大変困難であり、本実験法でしかできません。しかし、実験手技が困難なため、世界で我々しか本実験法は行うことができません。この実験法では2匹のラットのうち一方から心臓を摘出し、他方のラットを代謝サポーターとし、その頸動・静脈と摘出心臓をつなぎ血液交叉灌流を行います(図1)。
左心室内に挿入したバルーンの容積を変化させて左室圧の測定を行います。心臓の仕事量は、左室収縮期末容積関係(ESPVR)と左室拡張期末容積関係(EDPVR)とに囲まれた収縮期圧容積面積(=総機械的エネルギー:PVA)として求められ、1心拍毎の心筋酸素消費量(VO2)は動静脈酸素濃度較差から求めます(図2A)。VO2-PVA直線関係から、基礎代謝および興奮収縮連関の酸素消費を求めることができ、その傾きは、心臓の収縮効率(エネルギー効率)を示します(図2B)。
現在、私は「エネルギー代謝変化は心臓のメカノエナジェテイクスを変えて心不全治療へと導く」というテーマで、科学研究費補助金を得て研究進行中です。また心筋代謝物の網羅的なメタボローム解析を行い、大変興味深い結果を得ています。これらをさらに発展させ、心臓のエネルギー効率を変えるような新しいタイプの治療薬の開発の一助となるような研究を進めていきたいと考えています。
生物系研究室
准教授 小畑 孝二
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