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生物系研究室
所 俊志|2020.08.01VIEW 786
粘膜ワクチン開発を目指した、腸管出血性大腸菌の宿主細胞接着による 粘膜免疫の誘導機構の解析
大腸菌は哺乳類や鳥類の腸内常在菌の1つです。多くは無害であり、遺伝子組換え技術による医薬品などの有用物質の生産菌として活用されています。一方で、病原因子を獲得した病原性大腸菌が存在し、その病態により分類されています。夏場の食中毒の原因となる腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)はその分類の1つです。EHECの病原因子は志賀毒素と付着・定着因子です。付着・定着因子による感染の成立・発症は少なくとも2つの段階を経ると考えられます。1段階はIII型分泌機構(type III secretion system; TTSS)依存的な大腸上皮細胞への付着であり、2段階はTTSSを通して宿主細胞に移入したTirと菌体表面に発現するIntiminとの結合による強固な接着です。強固な接着によりA/E病変が形成され出血性腸炎を発症します。EHECの感染成立・発症のように、腸管や鼻腔、咽頭、喉頭、結膜などの粘膜は多くの病原微生物の感染成立の場及び生体内への進入門戸になります。粘膜には粘膜免疫と称される生体防御が備わっています。粘膜免疫では、ワクチン注射で産生される血中IgG抗体による血液循環を介した感染制御にはない、IgA抗体が粘膜に分泌されます。IgA抗体は病原微生物の上皮細胞への接着を抑制し、排除を促すことで感染防御に働いていると考えられています。ただ、その誘導機構の詳細が明らかになっていないために、IgA抗体の産生を伴うワクチンの開発には至っていません。
我々はこれまでに、マウスにEHEC O157:H7を経胃接種すると主要な表面抗原である糖鎖脂質に対するIgA抗体が腸管内に産生・分泌される一方,TTSSの構成因子(EspA, EspB, Intimin, Tir)を欠失すると血中抗体は産生されるが、IgA抗体は産生されず,IgA抗体の産生誘導にはTTSSによる腸管上皮細胞への接着が重要なシグナルになることを明らかにしてきました。今後、このEHEC感染マウスモデルを用いて、病原微生物の宿主細胞への接着に伴うシグナル伝達機構や細胞間相互作用を解析し、粘膜免疫に基づく感染予防・治療戦略の開発を目指します。
生物系研究室
講師 所 俊志
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