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教員コラム

野下 俊朗|2020.07.17VIEW 3,793

ノーベル化学賞の技術、ココがスゴイ!

ノーベル化学賞の技術、ココがスゴイ!

2010年のノーベル化学賞は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」に貢献した R. F. Heck博士、根岸英一博士、鈴木章博士の3人が受賞しました。「試験管内の偉大な芸術」と讃えられたパラジウム触媒クロスカップリング反応とはどんな反応でしょうか。

 科学技術の発達によって私たち人類は新しい薬やプラスチックのような革新的な化合物を手に入れて生活を豊かにしてきました。複雑な化合物を作り出すには炭素原子同士を結合させて望む構造を持つ分子を作り上げていく必要があります。しかし、炭素原子と炭素原子はそう簡単には結合してくれません。そこで炭素の反応性を高める様々な手法が考案され実用化されてきました。しかし多くの方法は複雑な分子を合成する際に多くの不要な副産物が生じるという欠点がありました。パラジウム触媒クロスカップリング反応はこの問題を解決し、実験室レベルでの複雑な化合物の合成だけでなく産業レベルでの有用な化合物の生産にまで応用されています。鈴木博士、宮浦博士が発見した有機合成反応は「鈴木-宮浦クロスカップリング」とよばれ、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物を反応させ新しい有機化合物を作り出す反応です(図1)。

結合させることが難しい、異なったベンゼン環などの炭素原子を狙い通りに結びつけることができるという点で非常に優れた反応です。反応を進行させるために必要なパラジウムはレアメタルで貴重ですが、この反応はごくわずかな量のパラジウムを使うだけで反応が進行します。したがって、材料(ベンゼン環)を供給し続ければ、パラジウムはひとりでにリサイクルが行われ、次々に目的とする分子が作られ続けますので、産業的に非常に有用な仕組みです。この反応を用いて作られる医薬品には高血
圧薬「アジルバ」などが、農薬では野菜の殺菌剤「ボスカリド」があります。液晶もこの反応を用いて低コストでの製造が可能となりました(図2)。

 2010年のノーベル化学賞は私たちの生活に欠くことのできない様々な有機化合物を生み出すきっかけになった発明に対して授けられたのです。

執筆教員紹介

職位・学位:教授・博士(農学)
氏名:野下 俊朗
専門分野:化学分野(有機化学、有機合成化学、天然物化学)
担当科目:化学、無機化学、有機化学Ⅱ、有機化学Ⅲ、生体有機化学、化学系実習、化学系薬学演習

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