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教員コラム
笹井 泰志|2020.07.17VIEW 2,138
薬を体内の目的地まで届ける「ドラッグキャリア」
せっかく薬を投与してもらったのに効きが悪い、あるいは副作用がでてしまった…。その原因はもしかしたら、薬の有効成分がきちんと病変部位に届いていないからかもしれません。
抗がん剤を例に考えてみましょう。皆さんの体にはたくさんの細胞が含まれますが、がんは異常な細胞が増え続けてしまう病気です。抗がん剤の薬には、そのような細胞を殺す作用(殺細胞効果)を持つものがあります。一方で体内には、健康な状態でも活発に細胞が作られる場所があります。その一つが、血液の工場である骨髄です。もしここに殺細胞効果がある抗がん剤が作用してしまうとどうなるでしょう?正常な血液細胞が作られなくなって酸素を運ぶ赤血球やバイ菌をやっつける白血球の量が減り、貧血や感染症になりやすくなってしまいます。
このことからも分かるように特に作用の強い薬では、有効成分を体内の目的部位に確実に運んであげることが重要です。適したタイミングで体の狙ったところに有効成分を届ける技術を「ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)」と言い、DDSに使う有効成分の運び屋を「ドラッグキャリア」と呼びます。例えば薬を注射で血管内に投与すると、薬はまず血液中を流れます。体中に張り巡らされた血管を通るルートは、薬の有効成分にとってとても長く、行く手を阻む障害の連続です。さらに、最終目的地は細胞の核の中の場合もあります。そのような想像も難しい旅路で、ドラッグキャリアは宅配便のようにきちんと体の目的部位まで有効成分を運ぼうとするのです。DDSが機能すると副作用の抑制や、投薬の量・回数の削減も可能になります。薬といえば有効成分が注目されがちですが、それ以外の成分も多く含まれます。それらを巧みに使い、有効成分が体の中で安全かつ効果的に使われるようにするためのドラッグキャリアの開発も薬学では大変重要な研究分野です。
執筆教員紹介
職位・学位:教授・博士(薬学)
氏名:笹井 泰志
専門分野:物理化学分野(薬物キャリア・バイオマテリアル・高分子化学)
担当科目:物理学、物理化学Ⅰ・Ⅱ、物理系実習、物理系薬学演習、製剤学Ⅰ・Ⅱ、総合薬学特論Ⅰ・Ⅲ・Ⅴ、特別研究Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ
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