教員コラム
安田 公夫|2020.11.17VIEW 3,303
患者の安全を守る「疑義照会」
疑義照会とは、医師の発行した処方箋の「薬剤名」「用法」「用量」「投与日数」、さらには「重複投薬」「薬物相互作用による禁忌」等に疑問や不明な点があるとき、薬剤師が処方医に問い合わせて確かめることを言います。現場の薬剤師にとっては薬剤師法第24条で定められた法的義務が伴う行為で、医師の医療行為に法的にチェックを入れられる薬剤師だけに認められた患者の安全性を守るための業務なのです。
実際、現場ではどのくらいの頻度で行われているでしょうか?2015年度の医薬分業における疑義照会調査によると、処方箋枚数ベースで見たときの疑義照会率は2.6%。2014年度の処方箋枚数は8億831万枚ですから、年間約2,100万枚、1年を365日とした場合は1日で約57,500枚分が行われていると推定されます。毎日決して少なくない数が行われている疑義照会ですが、その効果は患者の安全性を守るだけに留まりません。
注目したいのは薬剤費・医療費の節減です。2014年度に発行された処方箋8億831万枚によって本来かかるはずだった薬剤費が、疑義照会によって年間約103億円の節減。
さらに疑義照会によって重篤な副作用を回避できたとき、副作用重篤化確率を6.7%と仮定した場合の年間医療費節減額は約133億円となり、合計して約236億円を節減できると見込まれています。この様に、疑義照会は患者を薬害から守るだけでなく、不要な医療費を抑える効果を持つ薬剤師の重要な業務だと言うことができます。
薬剤師はもちろん疑義照会だけでなく、日頃から様々な調剤業務を行っています。主な流れは①処方箋の受領、②処方の監査、③薬袋作成、④調剤、⑤調剤監査、⑥患者への薬剤交付+服薬説明、⑦服用期間を通じた継続的な薬学的管理と患者支援。この過程(②~⑦)で疑問が生じた場合、入念な準備を重ねてから医師に対して疑義照会を行わなくてはなりません。医師から必要な返答を貰うためには、要点を簡潔に説明したり、答えやすい聴き方をするといったスキルも大切なのです。
医師の決めた処方(薬物療法)を監査し、必要があれば疑義照会をした上で調剤をしなければならない義務を負う薬剤師。医師や患者から薬に関する必要な情報を聞き出すためのコミュニケーション能力も含め、大学での専門分野を含む多角的な学びは疑義照会に大いに活かされています。
<参考資料>
公益社団法人日本薬剤師会委託事業「平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書」平成28年1月21日
執筆教員紹介
職位:教授
氏名:安田 公夫
専門分野:医療薬学
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