教員コラム
所 俊志|2020.11.17VIEW 1,428
人類と感染症との闘い
新型コロナウイルスのパンデミック(感染症大流行)により、新しい生活様式が模索されている現代。人類の生活様式の大転換は、移動しながら小集団で行う狩猟採集生活から、定住しながら大集団で行う農耕生活へ移行した頃にまで遡ります。それは同時に、三密(密閉、密集、密接)を生みやすい暮らしになったことを意味しています。さらに野生動物の家畜・愛玩化や戦争などによる領土の拡大は新たな感染源および感染様式・経路を生み出し、交易の発展によって世界中に拡散。人類は限りない数のパンデミックを経験することになっていったのです。
その内の一つとして有名なのが「ペスト」。様々な議論がありますが、ペストのパンデミックはこれまでに3度あったと考えられます。1度目は541年から始まる「ユスティニアヌスのペスト」。「シルクロード」を利用した交易により、ペスト菌や様々な病原体が中国とヨーロッパの間を行き来したことで流行したと考えられています。
2度目は皮膚が黒くなる症状から「黒死病」と恐れられた、ヨーロッパでの大流行です。原因や感染経路、治療法が分からず、ヨーロッパの人口の30~40%にあたる2,500万~4,000万人が犠牲になりました。ヨーロッパ土着の伝染病として数百年にわたり約2億人もの犠牲者を出したとされています。
3度目のパンデミックで「ペスト菌」が発見され、人への感染経路が判明しましたが、早急にワクチンや血清療法を準備することは困難でした。感染は日本、オーストラリア、アメリカにまで広がり、日本では27年間で約2,900人が発病、約2,200人が死亡しています。
2度目と3度目を比べて死亡者数が減少した理由は、ペスト菌の発見と感染経路の特定により、予防、検疫、衛生環境整備、治療対策が進められたことが大きいと考えられます。死亡率の高いペストを治療するには、早期診断・確定および早期抗菌療法、全身管理の開始が重要。有効な抗菌薬を投与することで通常 72 時間内に解熱し、ほとんどの場合、病状が改善に向かえば回復に向かうとされています。
再び新型コロナウイルスのパンデミックの脅威にさらされている今こそ、先人たちが築き上げてきた科学的財産(微生物学、免疫学、衛生学)に基づいて考えるときです。「ウィズコロナ」あるいは「アフターコロナ」に向けて、世界が一丸となって熟考し、行動し続けていきましょう。
執筆教員紹介
職位:講師
氏名:所 俊志
専門分野:微生物学、免疫学分野(腸内細菌叢、粘膜免疫)
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