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教員コラム

高 鑫坤|2020.10.16VIEW 2,191

予防医学の原点は「治未病」~薬膳の話から~

近年、「未病」という言葉が聞かれるようになりました。これは病気に向かいつつある状態を言い、中国最古の漢方医書『黄帝内経』の「巳病(いびょう)ヲ治セズシテ、未病ヲ治ス」に由来します。
時間がかかる上に困難な発病後の治療ではなく“未病を治す”という考え方は、予防医学理論の起源であるとも言えます。
この「治未病」は、中国の漢方医学である「中医学」の特徴の一つ。その治療法は様々ですが、その中の一つに薬膳があります。
薬膳は漢方医療と食事療法を結合させたもの。生薬学、料理学、栄養学を基に生薬や薬用食材等を配合して調理され、見た目も味も良い料理です。薬材と食材が補完し合うので栄養価が高く、病気の予防や治療は勿論、健康維持にも有用です。
薬膳では基本となる考え方がいくつかあります。その中に、食材には5つの味と性質があると考える「5味」「5性」があり、簡単に言うと以下のような内容となります。

【五味】
酸味…食材例:梅…肝を養う
苦味…食材例:苦瓜…心を養う
甘味…食材例:れんこん…脾(ひ)を養う
辛味…食材例:ねぎ…肺を養う
鹹(かん)味(塩辛味)…食材例:昆布…腎を養う

【五性】
熱…陽性…体を温める…食材例:唐辛子
温…陽性…体を穏やかに温める…食材例:みかん
平…陰性と陽性の間…温めも冷やしもしない…食材例:みょうが
涼…陰性…体を穏やかに冷やす…食材例:トマト
寒…陰性…体を冷やす…食材例:れんこん

薬膳には「薬」の意味があるので、体質や体調に合わせて摂る必要があります。
例えば、苦瓜はビタミンCが豊富で、風邪予防や疲労回復、肌荒れ等に効果的と言われます。中医学では味が「苦」で、利尿・健脾胃(消化器の活性化)・明目(視力改善)の効能があり、熱中症・目の腫れや痛み(結膜炎)・食欲不振等に有効です。しかし性は「寒」なので、脾胃虚寒者(冷え症・下痢・胃痛等を有する人)、低血糖者、妊婦等は慎重に摂るべきです。

生姜は食欲増進、疲労回復、夏バテ解消に役立ち、健胃・消炎作用があると言われます。中医学では味が「辛」で、発汗解表(発汗を促して体表に現れる症状を除く)・温肺止咳・解薬毒等の効能があり、風邪・咳・冷え症等に有効です。しかし性は「微温」なので、陰虚火盛者(咽喉の腫れや痛み・口の渇き・便秘・不眠等を有する人)は控えるべきです。

今後は人生100年時代になり、食で養生をする薬膳はますます重要になります。本学では「生薬学・漢方の基礎・漢方薬学」を通して、医療は勿論、幅広い専門知識を有する新時代の薬剤師を育成しています。

執筆教員紹介
職位・学位:准教授・博士(薬学)
氏名:高 鑫坤 (こう ちんしん)
専門分野:漢方薬学分野(漢方医薬学・伝統治療法・中国哲学)

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